柿や葡萄の実が大きくなり始めるころ、私は憂鬱になる。
「甲斐3尺」は今年も元気がなく、一房に数える程の粒しか実らず、母の実家からやってきた葡萄は昨年ならしすぎたせいか、こちらも幾房もない。
しかし雨が降っては日が差し、日が差しては、また雨が降るうちに、目に見えて大きくなっていくのは驚きであり、楽しみである。
まだ硬そうだが、鮮やかな黄緑色を見ていると、それはそれで収穫の期待大である。
葡萄の甘い香りがする頃、今年も招かれざる客がやって来る。
まずは蜂。
次はカナブン。
柿が大きくなり始めるころにはネズミも来る。
ハクビシンも、もうすぐやって来る。
空き家が多いこの住宅地のどこかにハクビシンの住処があり、クマネズミといわれる、害獣達も町内会の一員なのだ。
季節が進むと、少し大きくなった青い柿の実が、派手な音を立てて物置の屋根に落ちる。
そして跳ねて地面に落ちる。
問題はこれからだ。
グジュッとつぶれた柿の実の、酸えた匂いにコバエが湧き、ダンゴ虫がうじゃらたむろする。
庭に出ることさえ憚られる。
私が育てたわけではないが、柿も葡萄もすべてこの庭の食料品の所有権は私にある。
にもかかわらず、挨拶もなく、夜な夜な来ては食べ散らかしていく。
私は息を殺し、体を固くして、今夜も眠れない!
疲れ果てて浅い眠りについたころ、騒々しくはしゃぐヒヨドリの声で目が覚める。
いっそ、木を切ってしまいたい。
エサがなければ獣は来ない。
しかし、父の遺品(?)が亡くなってしまう。
今年の収穫を父に供えなくてどうする。
今年も恐怖に慄きながら、この季節が早く過ぎることを願っているのである。
私は父の庭の恵みをまだ口にしたことはない。